チームマネージャーコラム2

WTGレポート2
824日月曜日

いよいよ競技の開始である。奈々枝ちゃんがペタンクに出場だ。しかし、昨日空港からバスが遅れて着いたため、チームマネージャミーティング(以下TMM)に出られず、今日の様々な情報が欠落している。どうしても必要な情報は明日のペタンク会場へ行くバスの時間なのだが、ホテルのフロントや、日本チームを香港チームと掛け持ちで担当し、サポートしてくれるアルゼンチンボランティアのデミアンに聞いてもわからないという。明朝聞けとのことだ。

6時半から食事をすませ、香港のDr.チャウに聞いてバスの出る時間を探った結果、7時過ぎにバスが出るという。その後は845分で、会場までは45分かかるという。奈々枝ちゃんの出場は940分だとわかった。なんたることだ。チームマネージャーを任され、日本を出てから50時間かけて何とか無事にみんなが到着できたのに、最初の試合に遅刻し、場合によっては出場できなくなるかもしれないとは。他にやりようがなかったとはいえ、情けなく、暗澹たる気持ちになった。もっと早起きしていればよかったのか。いや、50時間以上体を横たえることのできなかった移植者のみんなが、一言の文句も言わずここまできて、やっとゆっくり眠れたのに、無用に早く起こすことなど出来ない。それにしても、昨日はどこかの国を待って、バスが遅れたためにTMMに出られず、重要なファイルがもらえなかった。開会式もバスが遅れたのを待って開始され、終了後のバスを外で待つときは、凍えそうな寒さだった。すべ不可抗力に思える。第20回のアルゼンチン世界大会は、多難の日々を予感させながら始まったのであった。

8時45分発のバスは20分遅れで出発した。はやる気持ちを抑えつつバスに揺られていると、ガラガラッと大きな音がした。街路樹が屋根をこすっているのだ。信号無視の人も、バスが信号無視をすることもある。道の舗装もまちまちだ。立ち並ぶ家並みは、土塀や煉瓦づくりの家が多く、平屋が多い。囲いの中に広めの庭があり、煙突のあるうちが多くて、飾り気はほとんどないが、のんびりとした感じがした。大型の黒や茶の野良犬が歩いていて、レトリバーの雑種のようだった。いけない、現実逃避しそうだ、遅れる心配しているのだった。

そしてバスは会場に到着した。バスから降りる選手は、なんと笑顔で、スタッフも急かせる様子はない。そうだ、これが世界大会だったと、何とかなるさ気分が、じわりじわりと芽生えてきながら会場にはいると、既に1010分前であった。そして、なんと、9時から開始されている競技は、まだどの試合も始まっていなかったのである。
審判は一人として英語が話せなかった。スペイン語しか通じず、指さしスペイン語会話の本が大いに役に立った。何せ、レーンの番号や対戦相手の番号、そして点数が大事な試合なのに、英語の数字は全く通じないのだから。奈々枝ちゃんが対戦したアメリカの女性は、肝腎同時移植した女性だった。ななえちゃんは肝移植者だとわかると表情が急に和らぎ、応援している人同士もとても和やかな雰囲気になった。ペタンクとは、目の細かい土の長方形のコートで、輪の中に両足を入れて、先行が投げたターゲットの近くに鉄球を3球ずつ投げて近い方が点数をとるゲームだ。鉄球は700gほどの重さがある。フランス発祥の競技だそうだ。なかなかの接戦であったが、惜敗であった。ほかのチームを見渡してみると、タイのチームは、男性チームも女性チームも大勢いて、自前のボールでの出場者がほとんどのようだった。足の悪い方もいたが、磁石でボールを地面から引き上げるひもを上手に使っている姿は、熟練者の雰囲気すら漂っていた。それにしても、建物がペタンク専用会場となっていたのには、熱を入れるスポーツのご当地性を感じるのだった。

その後、ホテルで受け取ったランチボックスを食べ、次の試合に備えて待っていたが、いっこうに呼ばれない。何とか英語のわかるスタッフを捕まえて聞いてみてもらうと、その試合はまだから待てという。そのうち、14あるレーンすべてで試合が終了し、そのまま審判はいなくなってしまった。始まりが1時間以上遅れ、さらに遅れているうちにどこからか試合会場に野良犬が入ってきた。これがこの国流なのだな。ずいぶん時間がたって、なんと、予定されていたのとは違う組み合わせで試合が始まった。試合は行われない、聞いても待てという、そして、5時からのTMMには今日は絶対に行かねばならない。しかし、英語の話せないみんなを残して会場を去ることをしてもいいのだろうか。そんな胸の内を奈々枝ちゃんに率直には話すと、待つのに疲れた上、一度試合ができて満足という。負けて悔しいに違いないが、応援者にも気を遣ってのことであろう。大人になったと思った。まだ一週間続く長丁場だ。皆を連れて帰ることにし、ほかのチームの働きかけもあって、3時前の早い時間にバスがきたので、それに乗り込んだ。果たしてこの混乱した状況で、明日以降もやっていけるのだろうか、と心配な気持ちは膨れ上がるばかりで、バスに揺られていた。

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